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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第3章 養子騒動編


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実は

一年前にお国入りしてからこっち

お智ちゃんの兄である跡継ぎの若様は、江戸に戻って居なかったのだけれど


潤之助さんも、その若様のお供でお国へ帰ったきり

江戸に戻って居なかったのだ



(若様のやつ、何だかお国で病を得て伏せってるとか言う噂だけど……潤之助さんは無事なのかしらね)



一年もの間、なんの音沙汰も無い潤之助さん

あたしらは疎か、お智ちゃんにすら何の便りも無いと聞いていたあたしは

ずっと、潤之助さんのコトが気掛かりだった



雅吉「こら、にの江」



と、潤之助さんの身を案じて黙り込んでいたあたしの顔を覗き込んで

雅吉が眉を寄せた



にの江「…なんだぃ」

雅吉「お前ぇ、余所の男のコト考えてたろぅ?」

にの江「ああ、考えてたょ

翔吾さん、今頃お智ちゃんの姿が見えなくて、騒ぎ出してる頃じゃないかって…」
「にの江さぁあ〜〜〜んッ!!(泣)」

にの江「……思って。(苦笑)」



あたしは、丁度聞こえて来た叫び声に苦笑いしながら、玄関の方へ目をやった



「にの江さぁああ〜〜〜〜んッ!!!!(泣)」

にの江「はぃはぃ、なんだぃ騒々しいねぇ、翔吾さんかぃ?」

翔吾「にの江さん、お智ちゃんが、お智ちゃんが恋太郎と一緒に行方知れずにぃいッ!!!」

恋太郎「とぉたま!!」

翔吾「Σふぇっ!?こここ恋太郎!!?」



玄関先で泣き叫ぶ父親の声に、恋太郎ちゃんが可愛くその父親を呼んだ



翔吾「恋太郎が居るんですかっ!?お、お邪魔しますよっ!!///」



翔吾さんはそう言うが早いか、バタバタと履き物を脱ぎ散らかして居間へ上がって来た



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