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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第3章 養子騒動編


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にの江「…そうかい…やっぱり、そうだったのかぃ…」



あたしはため息を付くと、腕の中の恋太郎ちゃんを、ギュッと抱き締めた



にの江「……お智ちゃんは今、そのお屋敷に呼び出されて行ってるょ」

雅吉「何だって?」

にの江「……まさか、実家の大名家で酷い眼に遭やぁしないとは思うけど……心配だねぇ」

恋太郎「ちんぱぃ、ら、ねぇ!」

にの江「……うん、そうだょね……心配だょね……」



あたしは訳も解らずにニコニコ笑いながら“心配だ”と言う恋太郎ちゃんを

もう一度強く抱き締めた



雅吉「あいつら、やっぱし恋太郎を連れ去りに来たのかぃ?」



恋太郎ちゃんを抱き締めて難しい顔をしているあたしの肩を、優しく抱いた雅吉が

あたしを居間の卓袱台の前に座らせながらそう訊いてきて


あたしは、それに黙って頷いた



雅吉「そうかぃ……そりゃあ厄介だなぁ

こりゃあ、お智ちゃんは只では帰してもらえねぇかも解らねぇな」

大倉「そ、それは大変でござるッ!!」



何故か遠慮して、廊下に正座して座っていた大倉さんが、お智ちゃんの一大事と聞いて急に大声を上げて立ち上がった



大倉「す、すぐさまお智さんを助けに参りましょうっ!!!」

雅吉「待ちなょ、忠義の

相手は名だたる大名家だぜぃ?そんなの

はぃそれじゃあって乗り込みに行ける相手じゃあねぇんだからょ」

大倉「し、しかし…!!(汗)」

にの江「……こんな時、潤之助さんが居てくれたら……」



あたしは腕に恋太郎ちゃんをしっかりと抱き締めたまま

ため息混じりにそう呟いた



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