第1章 出会い
「護衛?俺、弱いやつ嫌いなんだけど」
「は??弱くねぇけど????」
口を開けば、その儚い見た目とは裏腹にまぁなんと治安の悪いこと。ついムカついて反論すれば、ゴッと鈍い音とともに脳が揺れた。
「いっ…!!」
「申し訳ありません、悟様。躾し直しますので」
呪力を込められ本気で殴られれば、さすがに殴られ慣れてるとはいえ痛い。ぐるぐる回る視界。わかっているだろうに、じいさんはおれの頭を押さえつけ無理やり下げさせた。
「いーよ、別に。どうせすぐ辞めるだろ」
しっしっ、とまるで猫を追い払うように手でいなされる。この「辞める」が死を意味していることは何となく分かる。だって、この家には殺意がたくさんある。生き残るために必死だったおれは、そういった気配には敏感だ。
「辞めませんけど」
碌に喧嘩したこともねぇ坊ちゃんが。心の中で思いっきり舌を出しながら反論すれば、じいさんにまた睨まれる。
「あっそ。口では何とも言える。勝手にすれば?」
目の前のクソガキはおれのことを一瞥もくれず、それだけいうと場を離れた。
辞めません、っていうか、辞められない。辞めたところで、どこに行けばいいのかも分からないし。おれが金で売られたことは、ここにきてすぐ知った。今まで男の伝手ばかりで働いていたおれは、あの男に売られてしまえばどう生活していけばいいか分からない。
今までしてきたものが、ちゃんとした仕事じゃないことは知ってた。でも、おれみたいな子どもがちゃんとした仕事をできないことも知ってる。
知らないことが多い世の中だけど、知ってることもある。