第1章 出会い
2
次に目を覚ますと、見慣れたぼろいアパートの天井だった。しゅ、しゅ、と何かを削るような音がして、目だけで音の方を見る。体中痛いが、意識を失う前よりは幾らかましである。ゆっくりと体を起こせば、服は着替えさせてあり、あろうことか手当までしてある。
「目ぇ覚めたか」
「…あんたがやったの?」
音の発生源は男だった。やすりで爪を整えていたようだ。ふぅ、と息を吹きかけて手を止めた。
「まさか。するわけねぇだろ。女だよ」
は、と鼻で笑い、男は立ち上がった。女、恐らく一緒にいたキャバ嬢だろう。手当をしてもらえるのは有難い。病院に行く金なんてないし。
立ち上がった男はおれに近づくと、片手でおれの顎を掴み傷口を観察するようにじっくりと顔を見る。それが嫌で手を叩けば頭を殴られた。ごっ、と鈍い音がして脳が揺れる。
「いっ…て」
「顔はやられんなつっただろ。唯一のいいとこなんだからよ」
「知るか」
「あ?」
男は凄んでから、けれど直ぐに興味が失せたようで冷蔵庫をあさりにいった。ぶぅんと音がする。やっすい冷蔵庫は、壊れかけていて、あまり機能しているとは言えなかった。
「あぁ、そうだ。喜べ、新しい職場だ」
冷蔵庫を物色しながら、男が言う。
「…どこ」
「今回は今までとは違う。お前、呪霊が見えるだろ」
さら、と言われた言葉に、時が止まる。男の言葉を入れて、かみ砕いて、飲み込んで、けれど結局意味が分からず。
「………はぁ?」
でたのは渾身の、一文字だった。