第1章 出会い
どうしようか、と悩む。正直体中痛いし、ここから歩いて帰るなんてできるかも怪しい。しかも、クビになったことがばれたらまた殴られる。口の中にたまった、血の混じっている唾を吐き出す。
未だ止まる気配のない鼻血に、目の上を切ったせいでこちらも止まる気配のない血。眼球に入ったせいで、視界は赤く染まっていた。
あばらも何本かいってる気がする。息を吐くたび、ひゅーひゅーと音がして、痛みが走る。
いや、これどうしようもないな。
諦めて、空を見上げる。顔に降りかかる雨がうっとうしいが、熱を持った傷口には雨の冷たさがちょうどよかった。
そうして、しばらくぼーっとしていると、嬢を連れた男がやってきた。かつん、と雨の音に交じってヒールの音が響く。
「ほら、ここ」
聞きなれた声だった。おれが先ほどまで勤務していた風俗に務める嬢だ。
「客に喧嘩ふっかけて、代表に連れてかれたの。支配人も来てたけど、あいつらの目、血走っててやばかったもん。」
どうやら一部始終を見ていたらしく、男に説明している。横目で見れば、男は嬢の話なんて聞かずに腕に当たっている胸ばかり見ている。話聞けよ。
「おーい、大丈夫?ほら、あんたの…保護者?連れてきたよ」
嬢が傘を差した状態で、俺の顔を覗き込む。酒の香りと、煙草の匂い、香水の人口的な匂いにくらりと眩暈を覚える。言いたいことや、聞きたいことは色々あったが、これだけは言っておかないと気が済まない。
開けば痛む口を無視して、何とか絞り出した。
「それ、保護者じゃねぇ」
そこで、おれの意識は途切れた。