• テキストサイズ

やさしい雨の唄(仮)

第1章 出会い



 どうしようか、と悩む。正直体中痛いし、ここから歩いて帰るなんてできるかも怪しい。しかも、クビになったことがばれたらまた殴られる。口の中にたまった、血の混じっている唾を吐き出す。
 未だ止まる気配のない鼻血に、目の上を切ったせいでこちらも止まる気配のない血。眼球に入ったせいで、視界は赤く染まっていた。
 あばらも何本かいってる気がする。息を吐くたび、ひゅーひゅーと音がして、痛みが走る。

 いや、これどうしようもないな。

 諦めて、空を見上げる。顔に降りかかる雨がうっとうしいが、熱を持った傷口には雨の冷たさがちょうどよかった。

 そうして、しばらくぼーっとしていると、嬢を連れた男がやってきた。かつん、と雨の音に交じってヒールの音が響く。

「ほら、ここ」

 聞きなれた声だった。おれが先ほどまで勤務していた風俗に務める嬢だ。

「客に喧嘩ふっかけて、代表に連れてかれたの。支配人も来てたけど、あいつらの目、血走っててやばかったもん。」

 どうやら一部始終を見ていたらしく、男に説明している。横目で見れば、男は嬢の話なんて聞かずに腕に当たっている胸ばかり見ている。話聞けよ。

「おーい、大丈夫?ほら、あんたの…保護者?連れてきたよ」

 嬢が傘を差した状態で、俺の顔を覗き込む。酒の香りと、煙草の匂い、香水の人口的な匂いにくらりと眩暈を覚える。言いたいことや、聞きたいことは色々あったが、これだけは言っておかないと気が済まない。
 開けば痛む口を無視して、何とか絞り出した。

「それ、保護者じゃねぇ」

 そこで、おれの意識は途切れた。

/ 35ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp