第1章 出会い
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雨が降っていた。見上げる空はどこまでも灰色で、賑やかな繁華街であるはずのなのに、ビルとビルの狭間はそんな賑やかさとは無縁だった。
生ごみの匂い、いろんな腐敗臭。それに交じる雨の匂い。
ここは、掃きだめだ。
必要なくなったものが、ここに捨てられる。それは何も物だけではない。
「いって…」
しくじった。まさか、負けるだなんて思ってなかったのだ。親も学も何も持たない子どもが働ける場所なんて限られている。こちとら戸籍とやらがあるのかすら怪しいのだ。働く場所を失ったのは大きい。
学校なんてものは行ったことがなかった。親は数年前に死んだ。ろくでもない親だったから、死んだとて何も感じなかった。ただ、どうしようとだけ思った。
親が死んだとき、おれの目の前には口元に傷を負った一人の男が立っていた。名前も知らないその男は、なんの気まぐれかおれを拾い、働く場を提供してくれた。
まぁ。稼いだお金は男の賭け代として消えたのだけど。
そして、今日クビになり追い出された風俗も、男が働けと放り込んだ職場の一つだった。追い出された理由は、おれが客に殴り掛かったからである。代表に呼び出され、風俗を管理しているらしいヤクザに袋叩きにされた。
腕には自信がある。男が鍛えてくれたからだ。けれど、一人で勝てるわけもなく、殴られ蹴られ、ろくに動けなくなったところを路地裏に捨てられたわけである。