第3章 距離2
困って五条を見るも、相変わらず何を考えているか分からない顔でこちらを見るだけだ。
もうこのまま突っ込んだら泣き止んだりしないかな。つい自分がされたことを女にしそうになって、すんでのところで思いとどまる。頭に出てきたのは風俗で働いていた時のソープ嬢だった。
気が強い彼女は、けれど出勤前は決まって病んで泣いていた。「むり」「ありえない」「どうせ痛いだけ」そうやって泣いて、よく八つ当たりをされていた。「あんたがもし女の子相手にそんな雑なセックスしたら、ちんこ切ってやるんだから~~!」不意に思い出して、ぞっとする。今は連絡先すらしらない彼女だが、つい思い出してしまい指を抜いた。
少し様子見てみるか、と思い直したところで、女はわっと声を上げて泣きながら言った。
「手、つないでよぉ~~~」
手、手かぁ…。なに、つなげばいいの?
そっと手を握ってみる。
「ちがうっ!そうじゃない!」
違ったらしい。いや、もう分からん。
「ふっ、」
五条の方を見れば、肩を震わせ笑っていた。腹立つ。
「お前、セックス下手すぎんだろ」
小声で笑いをこらえながら言われ、むっとする。仕方がないじゃん。五条のいう「優しい」セックスや、彼女が望むようなセックスは、したこともされたこともないんだから。
むっとするおれに、女はおれの手をとり、指を絡めた。
「こうするんだよ。こうやって握るの」
いつの間にか涙が止まったらしい女はそういって、きゅっとおれの手を握った。
「つめたい、」
「あっためてよ」
反射で言った言葉に、女がそう返す。
ゆっくりと近づく顔。長いまつげに、伏せられた瞳。甘い香りがした。
柔らかい手に、体温が移っていく。なじんでいく。こんな触れ合い方は知らない。
唇が触れようとした。