第29章 息を飲む音
スケルタが息を飲んだ音が聞こえた気がした。
俺はすぐにスケルタの額から唇を離した。スケルタの頬がほんのり赤くなったのが見え、ちょっと恥ずかしくなって俺は目を逸らした。
「じゃあ次は僕だよ!」
スケルタはにっこりと笑った。俺は姿勢を直し、片膝をついてそれを待った。
……待つ方も、緊張するな。
「いくよ?」
「いつでもどうぞ」
スケルタが近づいてきた。俺は目を閉じた。
束の間、額に柔らかいものが触れた。
それは一瞬だった。ドキリと心臓が跳ねる余裕もないまま、スケルタは離れた。
スケルタは、もう泣かなかった。
「じゃあね、ぼん!」
「じゃあね」俺は一息置いた。「……ばいばい」
「ばいばーい!」
スケルタは両腕を大きく振り上げた。スケルタが羽織ったままの大きすぎる俺の上着をばざばさとさせて。
俺もそんなスケルタに手を振り返しながら後ずさり、エンドゲートへ落ちるようにくぐった──