第1章 *File.1*諸伏 景光*
「イイ歳して、照れてやんのー」
「青春真っ只中ですか?諸伏チャン?」
「ご馳走様」
揶揄う二人に、冷静なゼロの一言。
「お前らなっ!って、雪乃?」
「ありがと」
不意に横から抱き着かれて、耳元で囁かれた感謝の言葉。
「………」
ポンポンと雪乃の髪を撫でながら、やっぱりこのまま押し倒してしまいたいと一瞬考えたのは、男として仕方がないと思う。
「これから先、何の心配もなさそうだな」
「俺も早く結婚してえ」
「お前の嫁ほど、大変な嫁はいなさそうだが」
「なんだと?」
「松田は短気、我儘、傍若無人だろ」
「何処がだ!」
「そうやって、直ぐにムキになるところもだ」
「ハア?二重人格に言われたくねえんだよ!」
「仕事だ。仕方ないだろ」
「お前の方こそ、何かに付けて仕事仕事で、直ぐに嫁に逃げられるんじゃねえの?」
「そんなワケあるかっ!」
歳を考えろ!
ガキの喧嘩か!
「……」
オレからしたら、どっちもどっちだ!
でもまあ、それは松田、お前の方かもな。
もし嫁をもらったら、ゼロは仕事よりも何よりも嫁を溺愛するよ、間違いなく。
「まーた始まった」
そこで、萩原も否定しないのか?!
「だから、喧嘩は広い場所でやれって言ったろ?」
ビールを飲みながら焚き付けないでくれよ、班長!
「…ふふっ」
「雪乃?」
「大丈夫ですよ。松田君も降谷君も萩原君も個性があって素敵な男性ですから、きっと、みんな素敵なお嫁さんをもらえますよ」
「もし、素敵な嫁さんをもらえなかったら…」
「さっき松田にも言ったけど、雪乃は誰にもあげないよ。もちろん萩原、お前にもね」
キッパリと宣言した。
「あれまあ」
「想像以上だな。苦労するのは、案外望月さんの方かもしれんな」
「ドンと来い、です!私、こう見えても結構逞しいんですよ?」
「「「「「くっ!ハッハハハハ」」」」」
言葉通りに自分の胸を拳でトンと叩いた雪乃を見て、オレ達は同時に吹き出した。
「……何故?」
「尻に敷かれるのが決定したな、ヒロ」
一人首を傾げる雪乃を見遣りながら、ゼロは楽しげに肩を揺らしている。