第1章 *File.1*諸伏 景光*
「あれ?30歳じゃなかったんですか?」
「うん。確かにオレ達みんな今年30だけど、さ」
「ゼロ以上に年齢詐欺じゃね?」
「…松田?」
「落ち着け、ゼロ」
隣でゆらりと異様な雰囲気を醸し出した。
「喧嘩は広い場所でやれよー」
ビールジョッキ片手に、班長が楽しげに笑う。
「班長、煽らないで止めてくれ。職業的も不味いから」
「懐かしいねー」
「萩原も!」
だから、止めろって!
「ふふっ。みんな仲良しこよし、ですね」
「「「「「!!」」」」」
男五人で視線を合わすと、五人揃ってため息を一つ。
三十路のオジサン五人揃って、まさかそんなこと言われるとは思いもしなかった。
すっかり毒気を抜かれたよ。
「?」
「うんうん。キミが一等賞だ」
「萩原君?」
「くくくっ」
「最高じゃね?」
「あげないよ」
「?」
キッと松田を睨むオレの横で、雪乃はキョトンと首を傾げてる。
「キミが考えてる以上に、ヒロはキミのことを想ってるみたいだな」
「!」
雪乃の視線がゼロの顔に向いたのは一瞬で、直ぐにくるんと背中を向けてしまった。
「「「「「!?」」」」」
小さな背中を更に小さくして、両手で顔を覆って隠している。
「あら~」
「くくくっ。とんでもない子を見つけて来たな、諸伏」
「可愛すぎだろ」
「顔真っ赤だな」
この天然人たらしめ!
こんな時だけ、安室透モードになるな!
「ちゃっかり否定しないのねー」
「当たり前だろ!」
どれだけ探し尽くして、どれだけ待ったと思ってるんだよ。
半年だぞ、半年!
もし、今日再会出来なかったら、次は何時になってたか?
最悪、もう二度とこの機会はなかったかもしれないんだ。
「けどまあ、結果的にお前の恋バナを聞いちまったなー」
「ぐっ」
余計なコトを思い出してくれた。
「諸伏チャン、ずっと恋煩いしてたんだって」
「えっ?」
「そりゃ、誰にも言えねえよな」
振り返った雪乃の視線が痛い。
嫁さんがいる班長は、余裕だな。
「…私の、せい?」
「他にいるわけないだろ」
だーっ!
学生かよ!!