第6章 *File.6*諸伏 景光*
「は……」
「は?」
「じめてキスした」
「!!」
思わず、抱き締めていた腕を勢い良く離してしまった。
そ、それは一体どういう意味での発言だ?
瞬時にオレの中で緊張が走ると同時に、呼吸が止まる。
「すっごく嬉しかったよ?」
「…ハア」
よ、良かった…。
緊張で硬直した身体から、一気に力が抜けた。
「?」
「許可も得ないまま勝手にしてしまったし、おまけに初めてって言うから、大切な初めてをオレなんかとして、ショックを受けたのかと思ったよ」
「まさか!初めては先生が良かったの。だから、安心して」
「……」
どっちが年上なんだか。
幼馴染って、赤の他人同士でも似て来るものなのか?
ん?
咄嗟に自分の幼馴染の顔が浮かんで来たから、慌てて頭の中でかき消した。
「ちょっと違うね。初めては先生としたかったの。先生を好きになってから、ずっとそう夢見てた」
「……あんまり」
「うん?」
「オレを喜ばせるようなことばかり言わないで欲しい。今直ぐにでもキミをめちゃくちゃに愛したくなるよ。これでも凄く我慢してるのに」
「何時か……」
「何時か?」
「先生に愛されたい」
「!」
赤くなる頬を隠すように、正面から抱き着かれた。
これは、ちゃんと意味を理解した上で言っている。
今年で18歳。
意味は十分通じるよな。
もうダメだ。
完全に翻弄されている。
雪野がオレに見せる、オンナとしての表情に。
オレに伝える、紡ぐ言葉の一つ一つに。
「待ってて、いい?」
「ああ、オレも待ってる」
そうして直ぐ近い場所で微笑み合うと、もう一度優しいキスをした。