• テキストサイズ

*名探偵コナン*短編集*

第6章 *File.6*諸伏 景光*


「急に悪かったね」
「…別に」

明日から夏休み。
今の関係に俺の方が限界に達して、終業式が終わった後に一人、教室に残ってもらった。
問題のあの日の翌日から毎日休まずに登校してはくれたけど、視線を合わすどころか授業中も顔は背けられたまま。
だけど、クラスメイトの前では今まで通りにオレに接していた。
誰にも何の違和感も抱かせないぐらい、見事に完璧に。

「こないだのことは、本当にごめん」

窓ガラスの向こうに向いたままの、小さな背中に頭を下げた。

「だからっ、もういいって言ったじゃないっ!何で今更また謝ったりするのよ!!」

感情を露にして、怒鳴りながらこちらを振り返る彼女の大きな瞳には今にも溢れんばかりの涙。
そう。
あの時も流した涙。
何故?
イチ教職員として、オレをまだ好きでいてくれているから?
それとも…?
って、こんな状況で考えることではない、か。
この期に及んで、どれだけ都合のいい解釈をするつもりなんだよ、オレは。
自分が滑稽過ぎて、笑うしかない。

「弁解するワケじゃない。だけど、キミにはちゃんと伝えておきたいから、もう少し話を聞いて欲しいんだ」
「!」

クルリともう一度背中を向けられた。
頬に伝う涙を乱暴に拭いながらも、この場に留まってくれるのは、彼女の優しさ。

「今は教師としてではなく、一人のオトコとしての言葉だと思って聞いて欲しい」
「……」
「どういう言葉でキミに伝えればいいのか、今伝えたところでキミに信じてもらえるのかは分からないけど、オレが言ったあの時の言葉は、嘘も偽りもない、本当のことだよ」
「!?」
「あの時のごめんは、驚かせての意味。オレ自身もまさかあのタイミングで言葉にするとは思いにもよらなかったから、いい歳してカッコ悪いけど、言葉にしたオレ自身が酷く混乱した」
「……」

オレの言葉に驚いてまたこちらを振り返ると、まだ涙で濡れる瞳が大きく見開かれ、長い睫毛が何度か揺れた。


/ 86ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp