第6章 *File.6*諸伏 景光*
「何を言った?」
「一体、何の話だ?」
「しらばっくれんな。昨日、雪乃と何かあったんだろーが」
翌日の放課後。
望月の幼馴染の黒羽に屋上へ呼び出されたのは、予想の範囲内。
朝イチから殺気立っているのを隠しもせずに、教壇に立つオレを堂々と睨み付けてくれていた。
何かの確信を得た、表情で。
「…何故?」
「相手がオメーだから、今日は休んだんだろ。小学校から皆勤賞のアイツが」
「………」
ウチは学年が変わっても、クラス替えはない。
だから三年生になろうものなら、各クラスの団結力やら担任との信頼関係がかなり深くなる。
「それに、そのイケメン面に珍しくクマ作ってんのが明らかな証拠だろ」
「…クマ、ね」
昨夜、殆ど眠れなかったのは本当だ。
望月に対するこの想いをもう、認めるしか術はなく。
だが、やっと認めたところで現実はこの状況。
全ては自分がやらかしたこと。
誤解を解くにはもう一度、この想いを望月に伝えなければならないこと。
そして、今度はこの想いを信じてもらうこと。
彼女からの返答が、例えどうあったとしても。
いや、返事があるかどうかさえも分からないけど。
「で?」
「理由は言えない。これはオレ自身が解決しないといけないことだ」
「やっと認める気になったってコトか」
全く、どっちが年上だよ。
屋上の柵に凭れながら、ため息を洩らされる。
黒羽は長身でスマート、顔立ちは良くて頭脳明晰、父親の影響かマジックが特技。
君も十分イケメンで、モテてるだろ。
「一応訊ねるけど、何を?」
「此処で応えていいのなら、応えるケド?」
口元を釣り上げて、からかい交じりの表情と声音。
「……」
もしかしなくても、コレはヤバいヤツか?
「あー、心配は要らねーよ。オレしか気付いてねーから」
「…そうか」
彼の周りでは、そういうコトらしい。
「アンタのことも、雪乃のこともな」
「有難う。と、礼を言っておこうか?」
「心にもねーこと言うな」
ピシャリと跳ね除けられた。
「ヤレヤレ」
ジロリと睨まれる。