第6章 *File.6*諸伏 景光*
「望月」
「何?」
「キミが、好きだよ」
「……えっ?」
放課後のマンツーマンでの進路指導を終えて、普段と変わりない雑談をしている最中だった。
「えっ?」
望月は向かい合って並べた机越しに、静かではあるが驚きの声を上げたと同時に信じられないものを見るかのような表情を見せたから、オレは自分が何を言ってしまったのか、瞬時に理解することが出来なかった。
それは余りにも自然に口から吐き出された言葉だった、から。
もしかしなくても今……。
お、オレ。
こ、告った?!
ウソだろっ?!
「からかって、る?」
「い、いや、今のはっ!ご、ごめん!」
「うん………いい」
傍から聞けば、明らかに焦った様子で弁解を始めたオレの声を遮るように、俯いたまま聞こえたのは、負の感情を抑えたような震える声。
「そ、そういう意味じゃ………望月?」
そして。
彼女の瞳から溢れた涙が、ポタリと机の上に落ちて跳ねた。
零れた、この涙の意味は?
「……さよなら」
泣き顔を見せまいと顔を逸らしたまま、我慢を押し止めたような声で言うなり、カバンを手にして駆け出す。
「ちょ、望月っ!」
「……」
思わず立ち上がって伸ばしたこの指先は、彼女に届くことなく。
小さな背中に呼びかけても望月は一度も振り返らないまま、教室を飛び出してしまった。
「ああ〜」
やってしまった。
望月を傷つけた。
もう、最悪だ…。
誤解を解くことも出来ずに。
この場に引き止めることも出来ないまま。
あれは、オレの本音なのに。
この想いは、嘘偽り無い本物なのに。
屈託ない可愛い笑顔を見せる彼女を傍で見ていたら、ポロリと言葉にしてしまった。
無意識のうちに。
ずっと隠し通して、自分でも認めなかったこの想いを。
だからこそ、オレ自身もパニックって混乱した。