第6章 *File.6*諸伏 景光*
【現在】
「手伝ってやるよ。言い出すときかねえからな」
コイツが、と、彼は直ぐ傍にいる自分の幼馴染へと視線を向けた。
「だから、私は一人でいいって言ったじゃん」
「あのなー。イケメンでモテモテの若い担任教師と、可愛い女生徒が放課後の教室で二人きり。どんだけヤバいシュチュエーションだっつうの」
「快斗は考え過ぎー」
帰ったはずの望月と黒羽が、10分もしないうちにまた教室へと戻って来た。
何故か、飲み物を片手に。
「……」
一人の大人のオトコとして、黒羽の言い分はもっともだと、心の中で深く頷いた。
こんなトコを他の生徒に見られたりでもしたら、ただの噂話が途轍も無く大きな話になって、とんでもないことになるのは目に見えている。
「ほらよ」
「ん?」
「日々の感謝を込めて。俺の奢り」
「有難う。でも、高くつきそうで怖いな」
言葉と共に投げられた缶コーヒーを受け取る。
「あん?」
「冗談だよ」
形の良い眉を跳ね上げた黒羽に、笑ってみせた。
半分は本音だと、鋭い彼にはきっと気付かれただろう。
「先生もマメだよねー」
「時間がある時は、ね」
「アンタの場合、無理をしてでも時間作って、そこら辺の掃除してんじゃねーの?」
生徒達自身が教室やクラスごとに指定された校内を掃除するのは、毎週火曜と金曜の二日。
そうなると、やはりその間に床に落ちているゴミや机の汚れが気になってしまう。
時と場合による、かな?
まだ半分も終えていない掃き掃除を再開すれば、望月も箒を片手に同じく掃き掃除を、黒羽はバケツの中の雑巾を絞って、机を拭き始める。
「望月、黒羽、有難う」
「先生、お礼は掃除が終わってからでしょ?」
「じゃあ、掃除が終わってからもう一度言うよ」
「ったく、どれだけお人好しだよ」
黒羽が吹き出せば、望月もクスクスと笑う。
「教室がキレイだと、少しは勉強も捗るだろう?」
「⋯遠回しにヤなこと言いやがる」
「快斗が言うセリフじゃないー」
「だから、何時も教えてやってんじゃん」
「有り難き幸せ」
「だろー?」