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*名探偵コナン*短編集*

第6章 *File.6*諸伏 景光*


「言われなくても、分かってるよ」

月一ペースで行われる、同期恒例の飲み会の後。
風呂上がりに缶ビールを飲んで、一人呟く。
視線の先は、去年の修学旅行に撮った、スマホに収められている一枚の写真。
紅葉が綺麗な肌寒い季節に行ったのは在り来りな京都の観光名所だが、彼女と写真を撮ったのは、 宿泊先のホテル。
就寝時間ギリギリに偶然会った、廊下の片隅で。



『ふふっ。何かイケナイコトしてるみたい』
『!?』
『なーんてね!大切な思い出をありがとね、諸伏センセ』

「大切な思い出、か」

二人で写真を撮って欲しいと頼まれて、断るはずも理由もなく。
周りに人がいない上に時間も無いしで、結局自撮りすることになって、それなりの、かなりの至近距離で二人きりで。
時間にしたら、ホンの数分だったあの時の会話の内容や彼女の恥じらいをのせた楽しげな笑顔は、未だに脳裏に焼き付いて離れない。忘れられないんだ。

「一体、どういう意味で…」

あんな発言をした?
入学式のあの日から、担任として嫌われてはいない。
寧ろ、好かれているという自信はある。
毎年行われる体育祭や文化祭などの学校行事の時にも一緒に写真は撮ったけど、それは当たり前のようにクラスメイト達もたくさんいて。
『二人で』
そう言われたのは、あれが最初で最後。
彼女の気持ちに期待をしていいのか、否か。

「ハア」

自分の想いさえも素直に認めないくせに、全く都合のいい話だよな。
アイツらが助言?いや、お節介を焼くように、いっそのこと自分の気持ちを認めてしまいたいと、誰よりもオレ自身が思ってる。
でもその反面、萩原が言う通り、相手は自分が担任を受け持つ生徒だから認めたくない気持ちもあるんだ。
少女漫画や小説にあるような嘘みたいな話がまさか自分に降り掛かってくるとか、教職員になった時点で有り得ないと普通ならそう考え、そう思うだろう?
なのに、何時からか心の天秤に乗せられたこの想いは、自覚した瞬間からこぼれ落ちたことは一度もない。
教壇の上から、彼女の姿を見る度に。
それどころか、何時だってどんな時も。
本当はオレ自身が担任としてではなくオトコとして、彼女のことを一人のオンナとして見ていると自覚した時点で、認めるしか術はないのに。


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