第5章 *File.5*諸伏 景光*(R18)
「…本気、なの?」
「ああ、本気だよ。もし、雪乃が本当にオレを嫌いになったと言うのなら、今直ぐにこの手を離すけど?」
「…卑怯者」
「この世にたった一つしかないお前の心を手に入れられるなら、オレは手段を選ばない。相手が誰であろうと、雪乃の全てを奪い取ってみせるよ」
お前の気持ちが、ほんの少しでもまだオレに傾いているのなら。
ほんの僅かな確率でもオレに勝算があるのなら、全力を持って雪乃、お前を攫いに行く。
別れを選んだあの時点で、そう決めていた。
あの時のオレはキミに待っていて欲しいと願ってはいても、とてもじゃないが、言葉には出来なかったから。
生命の保証もなく、まだ20代半ばと言う年齢を考えても、これからのキミの人生をオレの存在で縛り付けたくはなかった。
自由に生きて欲しい。
雪乃は雪乃らしく。
でもその反面、何時の日か、お前が選んだオレ以外のオトコと幸せになるのなら、それは仕方がないと諦めてもいたよ。
「…どう、して」
「オレもキミと同じ」
「……」
「何があったとしても、オレはもう雪乃しか愛せない」
そう思い知るには、十分な時間を過ごした。
この心も身体も全て、お前のもの。
例えキミがオレ以外の誰かを選んでいたとしても、それだけは生涯変わらない。
オレと雪乃の想いが重なった、お互いにまだ高校生だった、あの瞬間から。
「……景光」
「うん」
俯いたまま伸びて来た指先が、オレの服を掴んだ。
「ずっと…」
「ずっと?」
「逢いたかった、の」
「オレも」
雪乃は涙を滲ませた瞳で真っ直ぐにオレを見つめると、ようやく笑顔を見せてくれた。
それは深い愛情を伴った、とても綺麗なものだった。