第5章 *File.5*諸伏 景光*(R18)
「嫌でもそう思い知らされたのよ。だからと言って、私にはどうすることも出来なかった。公安の仕事を邪魔するようなことだけは、絶対にしたくなかったから」
「……」
雪乃はオレの夢が警察官になることだと、付き合い始めた頃には知っていた。
待っていた、いなかった。ではなく。
自分ではどうすることも出来ない感情を抱えたまま、雪乃はあの日から生きて来た。
あの時、別れを告げた理由を問い質すことなく静かに受け入れたのは、何時かこんな日が来るかもしれないと覚悟をしていた?
オレが警察官になるという夢を叶えた、その時点で?
『最後に一つだけ、いい?』
『…ああ』
『景光は…私を嫌いになったの?』
勿論、返事はNOだとハッキリと応えた。
ウソでも、YESと応えたくはなかった。
『…そう。よかった』
それ以上何を訊ねるまでもなく、オレの事情を理解してくれていた。
たったその一言の、オレの返事で。
「参ったな」
「?」
「想像以上に愛されてる」
「はい?」
「雪乃、キミにね」
「だっ、誰もそんなこと言ってない!」
「逃げようとしてもムダだよ。もう絶対に離さない」
そのつもりで此処に来た。
雪乃はオレがこの手で護るんだと。
『どうした?ゼロ』
『今からポアロに来れるか?』
『…ポアロに?』
『但し、全ての覚悟が出来ないのなら、絶対に来るな』
『……覚悟?』
『もう二度と手放さないと、これからはずっと傍にいると誓えるのなら、今直ぐに来い。ただ、待てる時間はそう長くは無いぞ』
『ああ。今誓うよ』
「ちょ、と!」
「キスの続きを此処でするか、ベッドの上でするか、どっちがいい?」
「えっ?」
「オレとしてはゆっくり話もしたいから、ベッドの上がいいんだけど?」
勿論、一晩中抱き尽くす。
手加減なんか出来るワケがないし、するつもりも一切ない。
「は、はい?」
ニッコリ笑って問い掛けたオレを見上げたまま半ば唖然としてるから、このまま話を強引に進めることにする。
「じゃあ、帰ろうか」
きつく抱き締めていた腕を解いて、そのまま手のひらを重ねた。
「ひ、景光!」
「ん?」
戸惑った声に、雪乃の鞄を掴むとゆっくりと振り返る。