第5章 *File.5*諸伏 景光*(R18)
「…も……やっ」
「ふっ」
本当に強情っぱりな性格は変わらない。
そっと目を開けば、眉間には深いシワ。
「も、離してっ」
「無理」
「っン」
今度は頬を包み込んで、深いキス。
逃げ惑う舌を絡め、存分に口内を味わう。
もう止まらない。
身体中で、バクバクと心音が鳴り響く。
自分でも驚くほど、歓喜に満ち足りて。
そして、それは。
雪乃をもう二度と手離してはならないと、警鐘にも似た音で。
「どうして…」
「オレはずっと、雪乃だけを想って生きて来た」
「私はそんなの知らない。知りたくもない」
「だったら、どうしてまだ独りなんだ?あれから付き合った人がいるんだろう?」
同じ仕事場の、二つ年上の中々のイケメン。
「…いたよ」
「その男と別れた理由は?」
「貴方には関係がないことでしょう?」
「自惚れるよ。オレが忘れらないから、だと」
「自意識過剰もいい加減にして」
オレと雪乃の別れは、ある日突然だった。
それも一方的に、オレの方から別れを告げた。
公安の潜入捜査のため、ゼロと共にあの組織に入ることになったからだ。
その後直ぐに、兄さんにも別れを告げた。
警察を辞めたんだと。
オレにとって何より大切な二人の生命を、護るために。
「そろそろ素直にならないか?」
「どの面下げて、どの口がそのセリフを言うの?」
「悪かったな。こんな面構えで」
「…あの人とは、キス一つさえ出来なかった」
視線をそらした雪乃が俯いて、語り出す。
「!」
「私は確かにあの人に恋をしていたはずなのに。やっと忘れられるんだって、思ったのに…」
オレの存在を、か。
「……恋は、愛にはならなかったのか?」
「気付いたら、キスを拒んでた。あの人はあの人で、誰も貴方の代わりにはなれなかったのよ、景光」
「雪乃…」