第4章 *File.4*降谷 零*(R18)
「…く、苦しい」
「見事に平らげたな」
「こんな高いトコ、また来れるかどうか分からないじゃん。すっごく美味しかったし!」
そう言いながら、慣れない着物にきつく締めた帯で苦しそうなお腹を擦る。
正午少し前から運ばれ用意されていたのは、驚くほど豪勢な昼食だった。
さすがは黒田管理官。と言うべきか?
年の功、と言うべきなのか?
「脱がしてやろうか?」
「つっ、謹んで遠慮いたしますっ」
「くっ。まあ、その予定だが?」
「はい??」
「まさか、このまま帰るつもりじゃないだろうな?」
「…違う、の?」
「帰すわけないだろ」
「…私はこの縁談を速攻お断りして速攻帰るつもり、でしたが」
「奇遇だな、俺もだ」
「なのに、まんまとハメられたー。それもちょー強引な手を使って!」
「否定は出来ないな」
「ん?」
雪乃のカバンの中で、不意にスマホが震える。
「出て構わない。どうせ松田だろ」
「はーい。どうしたの?えっ?あー、それはその、ね?うーん、何て言うか、さ。ね、うん」
「……ハア」
「ちょ、ちょっと!」
視線をそらし、しどろもどろになるのを見れば、何を聞かれているのかは一目瞭然だ。
「どうした?」
『って、ゼロ?!』
「ああ」
雪乃のスマホを取り上げる。
『何でお前がそこに、って、雪乃の見合いの相手は、まさかのお前かよ?!』
「そういうことになるな」
『ったく、心配して損したぜ』
「安心しているところ悪いが、雪乃は俺がもらうぞ」
『ハア?!もらうっ?!』
「縁談は無事成立。以上」
『って、一体どういうことだっ』
電話の向こうでギャンギャン騒ぎ立てるから、そこで通話を切って、スマホを返す。
「あ〜あ」
「本当のことだろ」
「説明するのが面倒臭いー」
「いっそのこと、アイツらに見せつけてやればいい」
「はいっ??何か、さっきからキャラ変わってない?」
「何処が?」
「降谷透、みたいな?」
「勝手に名前を融合させるな」
「う〜ん。安室零かな?」
「…まだ言うか」
傍で腰を下ろすと顎クイをして、そのまま唇を重ねて塞いだ。