第12章 大切なもの【沖田視点】
その後、俺が風呂から上がる頃には土方の姿はもうなかった
「あれ…土方さんは?」
「十四郎さんならさっき帰ったわよ」
そう言ってテーブルに料理を並べる姉上を見つめる
「そーですかィ…」
髪を乾かしていたタオルを肩にかけ、席に座った
「いただきます」
姉上の作る料理は相変わらずどれも赤いが、味は言うまでもなく美味かった。
「美味しいです」
「ほんと?嬉しい」
「姉上…すいやせん」
「え?」
「せっかく土方さんと2人だったのに…俺、邪魔しちまったみたいで…」
俯く俺の言葉に目を丸くする姉上
「…やっぱり姉上は俺なんかいなくても土方さんがいれば…」
「…そーちゃん?」
「ッ!」
つい口走ってしまった一言に俺は慌てて話題を変えようと目の前の料理を次々と口に含んだ
そんな俺を見つめ姉上は目を細め言った
「ねぇ、そーちゃん」
「はい、」
「そのカレー、何かが足りない気がしない?」
「は?…」
姉上の突飛な発言に俺は一瞬頭がついていかなかった
「前に作った時よりは美味しく出来たと思うんだけど…十四郎さんが今ひとつ味に欠けるって…何が足りないのかしら」
目の前のカレーを見つめ頭を悩ませる姉上に俺はボソッと呟いた
「…"辛さ"ですかねィ」
「辛さ?」
「…姉上はいつも料理に色んなスパイス使ってやすけど…このカレーは少し甘めと言うか…」
「そう…辛さが足りなかったのね」
「?」
微笑む姉上に俺は頭にハテナを浮かべた
「不思議…人に言われないと気づかないことってたくさんあるのね」
「え…」
「私は辛い料理が得意だったからこのカレーには絶対自信があったの。でも十四郎さんに何か足りないって言われた時一体何が足りないのか全然わからなかった…」
「…」
「でも十四郎さんに聞いて、そーちゃんに聞いて…そしてそのそーちゃんの意見で初めて本来の私ならもっと辛さのあるカレーになるんじゃないかって気づくことが出来たの」
そう言って姉上は俺を見つめ微笑んだ
「ね?私と十四郎さんだけじゃ気づけなかったことよ」
「…」
あぁ、やっぱりすげェや…。
「おかわりもあるわよ」
「…いただきやす!」
姉上の言葉はそうしていつも俺を救ってくれるんだ。
「ちなみに十四郎さんは"マヨネーズ"が足りない、らしいわ」
「だと思いやしたよ」