第12章 大切なもの【沖田視点】
部活終わり、俺はいつもより少し早めにバイト先に向かった
桜のことを考えたくなかったからってのもあったが、今日はあの喫茶店でのバイト最後の日でもあったからだ。
「沖田くんッグズッ…今日でお別れなんてあたし寂しいッ!」
そう言って泣きながら俺にしがみつく店長
「ほんと…お店の看板だったのに…」
「大丈夫でさァ、心配しなくても俺の代わりなんて…またすぐ入ってきやすよ」
「違うわ、私は沖田くんじゃなきゃ嫌なのよッ」
ビシッと俺を指差す店長に思わず苦笑いした
「沖田…」
「空道…」
未だ泣き続ける店長の後ろからひょっこり現れたのは、このバイト先で唯一の同い歳、空道 春だ
思えばこいつとも…結構話したよな。
初め会った時は、苦手なタイプで関わるのに少し抵抗もあったが、実際話してみると思ったより面白くて…良い奴だった。
「色々ありがとな…」
「ううん、こちらこそ短い間だったけど一緒に働けて楽しかった」
見つめ合う俺たちに店長は口元を押さえながらニマニマと笑う
「もうッアツアツねお2人さん!このまま付き合っちゃえば?」
「店長!変なこと言ってる暇があるならさっさと厨房に戻ってサンドイッチ作ってください!」
「え~はるちんのい・け・ず♡」
「可愛くないですから店長!…と、それじゃあね沖田」
店長の背中を押しながら厨房に入って行く空道の耳がその時ほんの少し赤くなっていた気がするが…きっと気のせいだろう。
「…今日で最後…か」
この数ヶ月間、
- 明日だってこと忘れてねェよな? -
俺は明日の為だけにこのバイトもやってきたつもりだった。
- 沖田ッ!!-
桜に会う為だけに…。
「ばっかみてェ…」
俺は誰もいなくなった控え室で1人しゃがみ込み、頭を押さえた
あんなに会いたいと思ってたはずなのに…
今は…
「…会いたくねェよ」
俺は一体、何の為にここにいる?