第1章 enrollment
駆け寄ってきた棘の頭を撫でながら、口の中で呪力をぶつかり合わせる。
私の反転術式は、色々と制約があってなかなか使う機会がないのだけれど、棘になら問題なく使える。
棘の喉にちゅっとキスを落とせば、棘が口を開いて、
「あ、あー!治った!ありがとう!」
『こちらこそありがとう』
そう笑いながら抱きついてくる棘を優しく抱きしめていれば、夏油君と硝子ちゃんの笑い声と五条君の怒鳴り声が聞こえてきて、棘と一緒にそちらの方を向く。
「今のはどう考えても悟が悪いね」
「あぁ?タダで子守なんてするかよ、常識だろ」
「あはははっ、3歳児にやられてやんの」
「あー、くそ!おいかぐら!ちょっとガキ寄越せ!」
『なっ…!大人気ないこと言わないで!』
もう動けるようになってる…
これは棘の術式がまだ不完全だからか、それとも五条君が格上すぎるのかと考えながらも、クラスメイト達のやりとりにクスリと笑ってしまう。
「かぐら、ちゃん…眠たい」
『棘、頑張ってくれたもんね。一緒にお昼寝しよっか』
「かぐらは午後から体術の授業ですぅ。ガキは1人で寝ろよ」
『!!…そんな言い方!』
「悟の方がガキみたいだ」
五条君の精神年齢って…とは考えずにはいられない程に、彼への信頼は地に落ちてきていて、うとうとしている棘を抱き上げながら深く息を吐いた。
棘はとんでもない人に呪言使っちゃったみたい。
「棘、保健室に預けてきなよ。先生もいるし」
『た、確かに…それがいいかも。保健室って1階?』
「うん!案内するよ」
『硝子ちゃんありがとう!』
そう微笑んで私を教室の外へ連れ出してくれる彼女に安心しながら、もう完全に寝てしまった棘の頭を撫でた。
私と棘、五条君と上手くやっていけるかな…
『五条君っていつもあんな感じ?』
「だいたいあんな感じだよー…クズだしあんま近寄らない方がいいよ」
『く、くず?!』
「うん、かぐらもさっき感じなかった?」
『あー…はははは。…感じたかも』
「でしょ。
私のこと呼ぶとき、硝子、でいいよ?ちゃん付けなくて」
『あっ、うん!そうする!ふふっ』
「これからよろしくね」