第1章 enrollment
夏油君に撫で上げられた太腿から意識を離せずにいれば、笑顔の彼に背中を押される。
「部屋まで送るよ」
『ありがとう…あ!でも硝子置き去りにしちゃった』
「硝子なら私と一緒に起きて部屋に戻ったよ」
『そう、だったんだ』
「どうかしたかい?」
『な、何でも…』
そう背中を押されながら歩き始めると、クスクスと夏油君が笑っていて全部を悟られているようで恥ずかしくなる。
夏油君に触れられている背中が熱い。
"傑にも触らせんな"
唐突に思い出した五条君の言葉に息を呑んで、少し歩くスピードを早める。夏油君の手が降りるのを確認して軽く息を吐き出した。
みんなには隠し事、出来る気がしないよ。
「あとかぐら、私のことは傑でいいよ」
『呼び方の、こと?』
「あぁ。悟のことも呼び捨てにすると喜ぶんじゃないか」
『えっと、そうかなぁ』
「ハハッ、明日呼んでみるといい。いや、もう今日か」
夏油君を見上げれば、ニコリと微笑まれて息を呑んだ。
"呼んで"と言われているような気がして口を開いてみるが、名前を呼び捨てで呼ぶのは気恥ずかしくて、口を元通りに閉じてしまう。
硝子は初日だったからすぐそう呼ぶようになったけれど、今、突然変えるのはなんだか…。
『で、でも、硝子は2人のこと…苗字で呼んでなかった?』
「硝子には断られてしまってね。かぐらは名前で呼んでくれると嬉しいんだけれど」
『!…すぐ、る?』
「クスッ…そんな可愛く見上げられると困るね」
少し残念そうに軽く笑う夏油君に、思わず言われた通りに名前で呼んでみれば、楽しそうに私の頭に手を置く彼。
全て計算されていたみたいで少し悔しい。
それでもやっぱりお世話になりすぎてるという自覚がある分、出来ることはしてあげたいと思ってしまう自分もいて…
『明日、悟って呼んでみようかな…』
「その粋だよ。じゃあおやすみ、かぐら」
『げと…えっと、傑、ありがとう。おやすみなさい』