第1章 enrollment
午前3時の高専敷地内の境内の階段。
おそらく誰もいないこの場所で、かぐらの膝枕で目を閉じる。
ぴくりと動いた彼女をいじめたくなり、彼女の片手を捕まえて軽く握るが、抵抗される様子は無く、私を気遣ってくれているのだと感じて、彼女が少し愛しくなる。
誰かに膝枕なんてしてもらったのは初めてだ。
こんなにも、落ち着けて、心が洗われているような感覚は久しぶりで、悟という存在を忘れてしまいたくなる。
悟は昼に、硝子と私を連れ出すとこう言った。
"今日、禅院の奴らが高専に来る。
恐らく、かぐらに接触するからその時に言ってやるんだ。
かぐらは禅院じゃなくて五条に嫁入りするから諦めろってな。"
部屋に帰ってきた悟の機嫌の良さから見て、かぐらがそれに了承したのは間違いない。
けれど、それを私と硝子に言って来ないということは…かぐらが口止めしているのだろう。
全く。
自分も硝子もそうだが、かぐらに甘すぎだ。
彼女の同情を買われてしまう経歴に加えて、綺麗な容姿と心。
みんなが好きになるのは必然だった。
『かぐら』
「ん?」
『またこうして癒してくれるかい?』
「こ、こんなのでいいの?」
『ははっ、悟には言わないでくれ。嫉妬されてしまうからね』
「それは、そう、かも…」
手を繋いでいない方の腕で目元を隠して、かぐらと一緒に笑う。
既に悟の好意はかぐらにかなり伝わっているようだ。
キスマークをつけられている事に気付かないくらい、近い距離にいたという事実に少しの羨ましさを感じながらも、さすがの行動力だと感心と呆れが合わさった複雑な気持ちになる。
「夏油君、いつも棘の相手してくれてありがとね」
『あぁ。私も楽しいから問題ない』
「ひぁっ、ん!」
『クッ、脚が冷えてしまったね。帰ろうか』
起き上がって、かぐらの太腿をスカートの中5センチくらいまで撫で上げれば、夜風で冷えてしまったのか冷たい。
私のその行動に大きく身体を揺らして、口元を片手で覆う彼女。
可愛い声。
もう、聞いてしまったよ。
恥ずかしそうに瞼を伏せる彼女を、握っていたままだった手を引いて立ち上がらせると、パッと慌てて手を離される。
これはいじめたくなるな。