第1章 enrollment
私が話し終えれば、また、さらに驚いたような顔を見せた夏油君に首を傾げる。
何か、変だったかな…?
「ご両親を亡くしていたとは知らなかったよ。辛かったね」
『あっ…そっか。
そこまでは噂になってないんだね…大丈夫だよ』
「それで禅院に見つかってしまったわけだ」
『あはは、そう、なの。
私を探してたっていう事も知らなかったし、御三家のことも、この前、五条君に教えてもらって、初めて知ったから。色々びっくりで』
「何かあったら悟でも、私でも、何でも言うといい。私達は最強なんだ」
そう冗談混じりに言う夏油君の優しさに、擦り減っていた心が少し埋まるような不思議な感覚に陥る。今が初めてじゃない。高専に来てからまだ10日ほどしか経っていないのに、この期間に何度もみんなに救われている。
私、ここに来れて、良かった。
『ふふふっ、ありがとう。みんなのこと、もう大好きになっちゃったよ』
「おや?それは嬉しいね」
『夏油君も何かあったら何でも言ってね』
「ははっ、それじゃあその時は頼むよ」
『な、なんか馬鹿にしてる?!』
私の質問に答えずに楽しそうに笑う夏油君。
私だけでは頼りにならないかな?
でもちょっとくらいの傷なら治せるし、きっと少しは役に立てるはずと言い聞かせて、彼の腕を軽く叩けば、さらに笑われてしまう。
絶対馬鹿にされてる、けれど、先程彼にかけてもらった言葉の嬉しさの方が大きくて、もうっと呟くだけにとどめる。
『そろそろ寮に戻る?』
「いや、それじゃあ早速1個いいかい?」
『え?…!!』
「少し、このままでいさせてくれ」
突然、夏油君が横になったかと思えば、私の太腿を枕にして片手がきゅっと繋がれる。彼のサラサラの髪が太腿の至る所にあたり、くすぐったい。
それに…!
なんで、手、まで…?
月明かりと街灯に照らされて、瞼をゆっくり閉じる夏油君。
夏油君、疲れてる…?
棘と一緒にいたのは私だけではない。
夏油君も日中は割と、棘のいる空間にずっと居た。
硝子も、もしかしたら凄い疲れてるかもしれない。
五条君は…あまり、呪力で頭を覆ってなかったから分からないけれど。
そう思えば嫌がることなど出来ずに、冷たい夜風に吹かれながら、少しの緊張に耐え続けたんだ。