第1章 enrollment
『んっ…』
ちょっと頭痛いな…。
目を開いてしばらくすれば、硝子と夏油君が雑魚寝をしていることに気付く。
そうだ。
硝子が五条君にお酒をたくさん進めて、彼だけすぐにベッドで寝てしまったのだ。
私もかなりのお酒を飲まされてしまったからか、寝た時の記憶があまり残っていない。
硝子と夏油君に近くに置いてあった毛布をかけると、五条君の部屋を後にして、夜の高専を散歩することにする。
みんなで遊ぶの、楽しかったなぁ。
お酒と煙草はダメだけど、ね。
冷たい夜風が気持ち良くて、階段の途中で立ち止まる。
『早く、一人前の呪術師になりたい』
棘の呪言を受け止め続けられるくらいに。
きっと、棘は今、ご両親と過ごせて幸せだろうけれど、今回私が、棘にこの言葉しか使ってはダメと指定した"うん"と"ありがとう"以外の言葉だって発したいだろう。もっと色んな話をしたいだろうに。
そろそろ、棘の呪力コントロールの練習始めないといけないな。
「かぐら。大丈夫かい?」
『!…夏油、君?ごめん、起こしちゃったね』
「気にしないでくれ。かぐらと話したくて付いてきたんだ」
私と??
そう首を傾げると、夏油君は私にペットボトルの水を差し出して、階段に座る。
いつも結んでいる髪の毛を下ろしている彼に、新鮮な気分になる。
『ありがとう』
「棘が側にいる時は聞きにくくてね。
呪術師になったのは最近だと聞いているけれど、大丈夫かい?」
『大丈夫だよ。寧ろ、私を受け入れてくれる場所があってありがたいくらい』
そう夏油君に笑かけながら隣に腰を下ろすと、彼は、少し驚いたように優しく笑って、頬杖をついて私の方を見てくれる。
ここの人は、本当にみんな優しいな。
「へぇ。
ご両親が必死に呪術界から隠していた1人娘だったのだろう?」
『えっと…そうだったみたいだけれど…
その時は私、本当にこの世界のこと何も知らなくて。
だから、両親が亡くなった時に一気に全部説明されて…ほとんど、理解したようで頭をすり抜けちゃったというか、ね、あはは。
本家にお世話になるからには、やっぱり何か役に立ちたいし!
術式受け継いでいて、ラッキーだったなぁ』