第1章 enrollment
「黙っててやるから、またキスしてよ」
そう余裕そうに私を見下ろす五条君。私がびくりと肩を揺らすと、彼はフッと笑ってポッケに両手を突っ込んで目をゆっくり閉じる。
ま、待ってる…!?
私が何も出来ないでいれば、暇そうに目を閉じたまま首を傾けている。
彼氏や婚約者ができるなんて今までの自分には、というか今後一生、縁が無いと思っていた。戸惑いや恥ずかしさやむず痒さでいっぱいになりながらも、背の高い彼を意を決して見上げた。
五条君に、届かない。
『えっと…【かがんで】』
「うおっ、ちょっ、ん」
『んっ。…ふふっ、じゃあゲームしに行こっか』
「は!?呪言使うとかムード台無しなんだけど」
くっそ、やられた〜と一瞬で私の呪言を解いて、額を片手で押さえながも、再び一緒に歩き始める。
恥ずかしさを紛らわすために思わず使ってしまった呪言。
突然使ったために、かなり驚いてくれた五条君を目の前にしたら急に緊張が解けてホッとした。それにしても、
また私から、キス、しちゃった…
そう思えば顔が熱くなり、ホッと一安心なんて気持ちは消え去っていく。
彼の大袈裟な反応に笑いながら、密かに少し距離をとって熱を冷まそうとすれば、
!!
さらりと手をとられて、指まで絡められる。
恋人、つなぎ…?!
「傑と昨日してたんだから、俺とだって問題ないだろ?」
『あ、あれは棘が…!』
「ゴチャゴチャうるせーぞ。昨日、俺がどんだけ妬いたと思ってんの」
『昨日…そっか、まだ1日しか経ってないんだ』
そう言って軽く息を吐き出して階段を降り始めれば、繋がれた手が背後に引っ張られて振り向くと、
!?!
物凄く嫌そうな顔してる…!?
特殊に歪んだ彼の顔に、私も驚きで顔が歪んでしまった気がする。
『えっと?』
「かぐらチャンって、たまに残酷〜」
『ぇ?え?ご、五条君!?ごめん、私、何か…』
「もういいデス」