第1章 enrollment
まだ頬を赤く染めたままのかんなの肩を抱いて自室への道のりを一緒に歩く。
時折、首を傾げたり、不安そうに口元を手で抑えたりしている彼女が、何を考えているのかは大体想像がついて愛おしさが増していく。
昨日、本家に電話した時、禅院の跡取りが明日東京へ来るという情報をたまたま仕入れる事が出来てラッキーだった。
キスしてるとこくらい見せれば、簡単に帰ってくれると思ったんだけどな。
…逆に喧嘩売られるとか、俺のこと舐めてんの?アイツ。
まあおかげで、口約束だけだとしても、かぐらを婚約者に出来たのは素直に嬉しいし、これを機に俺の事、ちゃんと見てくれればいいけど。
『かぐら〜、大丈夫?
さっきから可愛く百面相しちゃって』
「か、可愛くって…!馬鹿にしてる!?」
『ハハッ、可愛い』
あぁ、こんな事思っちゃう俺、まじでかぐらのことになるとどうかしちゃってるわ。
おそらく一目惚れだった。
教室に小さな男の子を抱っこしながら入ってきた彼女は、柔らかな優しい目でソイツに笑いかけていた。大丈夫だよ、と。
長袖のワンピースの形の制服を見に纏い、膝上のスカートからスラリと伸びた綺麗な脚にショートブーツを履いていた。好きな女のタイプだと思った。
2人はネックウォーマーで口元を隠しており、似ている呪力を身体に宿していた。サングラスを少し下にずらして術式を読み取れば、今、呪術界を騒がしている彼女だとすぐに分かり、途端に俄然興味が湧いた。
彼女に視線を送るも、彼女は先生の話が終わるまで腕に抱いているガキばかり気にして、俺はおろか、傑や硝子の方さえも見ていなかった。後に棘のコントロール出来ていない呪言にかかってしまうとは思わなかったけど。
その次の日から、高専の結界外へ出ない日には彼女はネックウォーマーを下げ、素顔を見せていたのだが…
可愛すぎてまだ慣れない。
口元の狗巻家の紋様まで愛おしく思えてきている。
「五条、君は、その…いいの?婚約者とか、決めちゃって」
『かぐら以外なら嫌だったかもな。
けどかぐらならいい。問題ない』
控えめに俺と視線を合わさずに聞いてきた彼女に、そう腰を折って答えて笑えば、彼女は目を見開いて立ち止まってしまった。
俺の沢山のアピール、やっと気付いてくれた?