第1章 enrollment
「こうなってしまうから早くしろって言うたやん」
直哉君の声…?
数人の足音が徐々に近づいてくるのが分かり、ぎゅっと五条君の制服を掴んだ。
禅院家の人間は苦手。
中でも次期当主であろう1つ歳下の直哉君は1番苦手で、そんな人と結婚するなんて考えられなかった。
「かぐらが高専に入ったら、俺に惚れるって予知してたワケ?」
「逆。五条家の跡取りがかぐらに惚れてしまうやろなって予知してたんや」
「直哉様。悟様へのお言葉には気をつけて下さい」
「チッ…」
直哉君の舌打ちの音が近くで聞こえて、今日は逃げられないと確信し、ゆっくり五条君から離れる。五条君のキスで熱くなっていた全身は、既に冷め切っていて、軽く息を吐き出して、五条君と同じ方向を向いた。
そこには、直哉君含め禅院家の人間が5人いて軽く会釈する。
「棘がいない今日にわざわざ会いに来た理由、分かってんねやろ」
『断った、はずだと思うんだけど…』
「狗巻家は、かぐらに返答を委ねる言うてるで。つまり、了承してるっちゅうことや」
『まだ直哉君14だし結婚できない、よ?』
「婚約と、すること、はできるやろ」
!!
その言葉の意味を理解するのに時間はかからず、目を見開いた。
そんなの、絶対嫌だよ。
前回の断った時を思い出して、どう断ろうか頭の中でぐるぐると考えていれば、五条君が私にふわりと微笑んで直哉君の方を向いた。
五条、君?
「かぐらに触れたら、俺、君のこと、殺しちゃうよ?」
『え?』
「かぐらが望むなら、俺、禅院家、皆殺しにできるよ?」
『だ、だめ!それは、だめ…』
そう五条君を見上げれば、"分かってるよ"と私の額にちゅっとキスを落として満足気に微笑む彼。
凍りついていた身体がたったそれだけで、熱くなってしまう。
本当に、分かってる…?
「例え古くから続く狗巻家でも呪術師として生きていくなら、御三家には逆らえない。
かぐら、選んで。俺か、禅院か」
『ご、五条君、それって…』
どくんっと心臓が大きな音を立てて、密着していた五条君から思わずのけ反った。
近くにいる直哉君を見れば、両手を顔の横に上げてお手上げのポーズをしていて、
『かぐら、俺と結婚してよ」