第1章 enrollment
「おい五条、かぐら離せ」
「ハイハイ。それから、オ、レ、は、かぐらに何もしてませーん」
硝子のおかげで解放され、口元を片手で隠しながら席につけば、笑顔の夏油君に顔を覗き込まれて背中に冷たい汗が流れる。
夏油君、いつも鋭いから怖い…!
「顔赤いけど、何があったんだい?」
『えっと…』
「ハハッ、そんなに分かりやすいとイジめたくなるね」
『!?…五条君は、その、本当に一緒に寝てくれた、だけで』
「同じベッドで?」
『そう、だよ?』
そう答えれば、夏油君が笑顔のまま硝子の肩に軽く手を置いて、口を開く。
な、何?どうしたの?
「悟、かぐらと同じベッドには上がらないと誓ってなかったかい?」
「は?誓い破ったの?」
「あー、そんなこと誓ったっけ?俺?」
『誓い…?』
そう私が首を傾げれば、五条君が突然、硝子と夏油君にガバッと肩を回して消えてしまう。
瞬間移動、出来るとは聞いていたけれど初めて見た…
私だけ、残されちゃった。
ありがたいような寂しいような複雑な気持ちを抱えながら、机に置いてあったプリントに気付いて、数学の問題を解くことにする。
ファーストキスのことは、考えないようにしよう。
そうしばらく夢中で問題を解き進めれば、4枚あったプリントの課題は全て終わり、時計を見ようと目線をあげると、
『ひゃっ!い、いつの間に…』
前の席に堂々と座って、暇そうにこちらを見ている五条君がいたのだ。
また、瞬間移動で戻ってきたってこと…?
硝子と夏油君は見当たらず、帰りは自分だけ瞬間移動したのだと悟り、?が頭の上に浮かんだ。
「かぐらが微妙な反応したからさ、俺、2人に問い詰められてすっげぇ大変だったわー」
『それは…本当に申し訳ないです…
私がしたこと、黙っててくれてありがとう』
「いーよ。それ終わった?」
『あ、うん!』
「じゃ、それと報告書出しに行こーぜ」
そう先に立ち上がって、歩き始める五条君に慌てて付いていく。
同級生からキスされたことは、あまり気にしていない様子でホッとする。
誓いがどうのとか言っていたけど、大丈夫だったのかな。
あれ?そういえば報告書って、私、書いたっけ?