第1章 enrollment
涙を流しながら俺にキスしてきたかぐらに驚きで目を見開いた。
もちろん嬉しい。
だって自分からそうして欲しいと頼んでいたのだから。
だが、この状況で彼女が泣いているということは、それだけ狗巻家のことで思い詰めていたということだ。
もっと早く手を回してあげるべきだった。
自身の持つ"目"のおかげで、彼女の纏う呪力が日に日に弱まっていることには気付いていた。
棘が近くにいた手前、何も言わずに過ごしてしまったことが悔やまれる。
ゆっくり離れていく彼女の頬を流れる涙を片手で拭えば、
「五条君ありがとう。今、勝手に五条君に救われちゃった」
そう笑いながらも、今のでお礼足りてた?と俺を見上げるかぐらにきゅっと胸が締め付けられた。
俺とは違って、かぐらは偉すぎなんだよ。
涙が流れていることに気付いていなかったのか、恥ずかしそうに目を逸らしながら目元を拭う彼女をゆっくり寝かせ、自分も彼女の隣に横になる。
そして、先程と同じように彼女を後ろから抱きしめるようにして目を閉じれば、ぴくりと彼女の身体が揺れる。
可愛すぎ。
『ファーストキス、ご馳走様』
「み、みんなには、内緒、だよ?」
『ハイハイ』
そうテキトーな返事をして、さらにぎゅっとかぐらを抱きしめる。
そうしている内に自分の鼓動ではない心臓の音を感じて、さらに腕の中にいる彼女を愛しく思ってしまう。
まだ出会って1週間くらいしか経ってないのにな。
『明日から3日間、俺の家の人間を狗巻家に送るから、棘のことは任せてかぐらはゆっくり休めよ』
「えっ…で、でも、明日、任務があって」
『あーそうだった。…俺も行く。だから無理すんな』
「五条君は…何でそんなに優しいの?」
『もう1回キスしてくれたら教えてやるよ?』
「!?…おやすみ、なさい」
『おやすみのチューは?』
「な、ないよ!」
そう恥ずかしがる姿に、フッと笑いながら彼女の後頭部にキスを落とす。
さっき、かぐらが意識を失ってから、傑には鼻で笑われながら、硝子には猛反対されながらも自分の部屋にかぐらを連れてきた。
いつも彼女が身につけている呪具を丁寧に外しベッドに寝かすと、本家に電話をかけて、お決まりの我儘で棘の面倒見るように指示する。