第1章 enrollment
「どー、いたしまして、っと」
『きゃっ…起きて、た?』
そう勢いよく起き上がる五条君に驚けば、彼の口角が上がっていくのが見えた。
彼が枕元にあったリモコンのスイッチを付けると、部屋が急に明るくなり瞼をぎゅっと閉じる。
額に五条君の手が当てられて、瞼をゆっくり開くと、大丈夫だなと微笑まれて胸が締め付けられるような感覚に陥った。
あれ?ここ、どこ…?
「ここ、俺の部屋。さっきのは何のありがとうだったの?」
『そ、うなんだ…。
えっと、色々…全部?』
そう五条君の目を見れば、透き通った蒼色に目を見開いた。
いつもサングラスしてるから、慣れない…!
フーンと言いながらも私の顔を覗き込むように近付いて来る彼から、後退りするようなスペースはこのベッドにはもう無くて、早くなっていく鼓動に耐える。
「じゃあ、その全部教えろ」
『!えっと…
いつも朝、棘の相手してくれて、さっきはハッピーセットも買ってくれてありがとう、と…
さっき夏油君の手離してくれてありがとう。そ、それから、呪力強化したままだったのに気づいてくれてありがとうと、歩けなくなった私を運んでくれてありがとう』
そうなんとか言い終えると、ニヤリと笑った五条君の掌が私の頬に添えられて、顔が少し熱くなる。
な、に…?
「なぁかぐら。お礼、くれよ」
『!…む、胸は見せない、よ?』
「ダメ?」
『だ、だめ…他のにして欲しい、です』
「じゃあ、かぐらに反転術式使うの、俺にやらせて」
?!?
五条君の顔が目と鼻の先まで迫っていて、驚きと疑問で頭の中がパニックになる。
私の反転術式は口内でしか行うことが出来ず、他者へ使用する場合は、そのまま治したい場所へキスを落とす。身体全体の場合は口にキスを落とすと効果があるらしいのだけれど、今までそんな場面に遭遇した事が無いから未経験…。
そして、自分の傷や病気を治す時は、他者に一度口移しで唾液をすくって貰い、私自身の治したい場所へキスしてもらう必要があるのだ。
どうしよう、キス、したことないのに…!
『わ、私…今、どこも悪くないよ?』
「肩凝ってんじゃん。棘ずっと抱っこしてるから」
『!そ、だけど…』