第1章 enrollment
『棘、お家で話して良い言葉覚えてる?』
「うん!」
『さすが棘!じゃあまた明日ね!』
棘と目線を合わせるために下ろしていた腰をあげ、棘のご両親に会釈する。
『では、また明日高専にお願いします』
「かぐらちゃんありがとう。それじゃあね」
棘のお母さんとそう言葉を交わすと、3人は家への道を楽しそうに歩いていく。
大丈夫そうで良かった。
そう深く息を吐き出していれば、後ろから軽く二の腕を掴まれる。
??
『五条君…?』
「良い加減解けよ。頭の呪力」
『あ、そっか、今日は解いて良いんだった。
!!…あ、れ……?』
棘が誤って呪言を使ってしまった時のための対策として、ここ最近ずっと脳を呪力で覆っていたのだが、五条君に言われなかったらこのまま明日まで過ごすところだった。
しかし、そう強化していた頭周りの呪力を解いた瞬間。
手足の力が一気に脱力し、腕を掴んでいてくれた五条君に支えられる。
1人では立っていることすら難しいほどに、身体が徐々に熱を帯びていくのが分かった。
「やっぱりな。無意識のうちに無理してたんだろ」
「うっそ、かぐら大丈夫?
疲労とかって反転術式効くのかなぁ」
「やるだけやってあげてくれよ」
そう覗き込んでくれる硝子や夏油君に何の反応も出来ず、五条君が優しく抱き上げてくれるのを少しだけ開く瞼の隙間からただ見ていたんだ。
『んっ…』
誰かの温もりを感じて瞼をゆっくり開いて少し首を動かす。
!!??!!
五条、君…?
目と鼻の先に綺麗に整った顔があり、白い睫毛と髪で彼だと確信する。
規則正しく寝息をたてており、起こさないようにゆっくり起き上がると、どうやら彼は私を抱きしめるようにして寝ていたようで、長い手足が私を守るように覆っていた。
私、確か倒れちゃって…
あれ?身体、全然辛くない。
寧ろ、凄く身体が軽い気がする。
硝子が私を治してくれたんだ…
…そう、だとして……どうして、五条君が隣に??
近すぎた距離を思い出して、突然恥ずかしくなる。鼓動が速くなるのも感じる。なのに、近づきたい。
隣で気持ち良さそうに眠る彼の髪に手を伸ばして触れると、サラサラと指の間から抜け落ちていく。
『五条君、ありがとう』