第1章 enrollment
少し早くなる鼓動を抱えながらも、止めていた脚をなんとか動かす。
冗談…?
それか、誰かに頼まれてる、とか?
五条君が、私を…なんてあるわけないか。
少し考えれば分かる事なはずなのに、一瞬でも勘違いしてしまった自分が少し恥ずかしい。
食堂の扉を開けば、五条君が棘の隣に座り、棘の目の前には夏油君が座っていた。
硝子は…授業ギリギリまで寝てるのかな。
『夏油君おはよう。いただきます』
「おはよう、かぐら。
棘、悟に取られてしまっているがいいのかい?」
笑いながら、目の前の2人を顎で指す夏油君。
棘と五条君がおかずの取り合いをしているようで、なんだか微笑ましい。
『ちょっと複雑だけど…寧ろ、こうなって欲しかったんだ。
呪言を使えるようになってしまっても、たくさんの人と一緒にいれるようになるのが目標だから』
「なるほど。そうなれば棘は本家に戻るってことかな?」
『その予定だよ!棘もお母さんとお父さんに会いたいだろうし』
そう夏油君の方を見れば、頬杖をつきながら私の方を観察していて…
凄い、見られてる…!?
『夏油、君?』
「食べ終わってしまったから暇でね」
『あんまり見られると、食べ、辛いんだけど…』
「そうかい?」
!!
ニンマリ笑ったまま、そして、私の方を向いたままの夏油君にちょっとした違和感に似た恐怖を覚える。
私もなんとか微笑み返すと、ゆっくり首を90度まわして目の前の五条君と一瞬目を合わせ、ぎこちなくご飯を食べ進める。
五条君についても、夏油君についても、全然理解出来なさそう…
色々気になる事が多すぎて、味があんまりしないなと思いながら、少し息を吐き出す。
「かぐらちゃん、元気ない…?」
『!…棘、そんな事ないよ?
今日授業終わったらおでかけだもんね』
3歳の棘にそう覗き込むような仕草をされて、ハッと顔をあげた。
まだ1週間しか経ってないんだから、クラスメイトのことは分からなくて当然だよね。
そう自分に言い聞かせ、棘に笑顔を向ければ、嬉しそうに頷く棘が可愛くて身体の力が抜けていく。
「放課後どっか行くの?」
『ハッピーセットのおもちゃが欲しいみたいで』
「なら、私の使役している呪霊に乗ってくかい?」
「げとーも一緒!?やったぁ」