第1章 サインの秘密
「テキトーでいいんじゃね?」
とMENが言えば、それはだめやろとおらふくんが真面目そうな顔でこちらを見上げた。
「僕たちのグッズに書かれるシークレットサインなんやろ? ちゃんと真面目に書かなあかんやろ」
「はははっ、真面目ですなぁ、俺の恋人は」
「そりゃーもう……んっ」
どさくさ紛れにおらふくんの唇を食めば、怒るどころかすんなり受け止めてきて心地がいい。もっと奥まで貪りたいが、これでおらふくんの手を止める訳にもいかずにMENはゆっくりと離れた。
「いきなりびっくりするよ、MEN……」
そう言うものの、火照った顔のおらふくんが愛おしい。悪い悪いと言いながら、MENはおらふくんの頬に触れた。
「少しは上手く出来そうか?」
「まぁね」
得意そうに笑うおらふくんはMENのすることなすこと全てを受け入れた。このまま強引に押し倒しても怒らなそうだが、サインの納期が近いのも確かだ。MENはぐっと気持ちを堪え、おらふくんと並んでパット端末を眺めた。
「さて、俺のおらふくんは何に悩んでるのかね」
「これなんやけど」
と指すのは、三種類のサイン。どれも可愛らしくておらふくんの好みそうだ。だがどれも書くのは大変そうなものばかり。なるほどねとMENは呟いた。
「ねぇ、MENはどういうの書いたん?」
「俺のはこう書いたが」
MENは自分の会社用パット端末を取り出してサインを見せた。
「え、めっちゃ上手ない?」
「はははっ、普通よ普通」
「めっちゃかっこいいし、ええなぁ」
「そうかぁ?」
MENは大したことないと思っていたのだが、おらふくんは熱心にこちらのサインを見ていた。そんな姿も愛おしい。MENは思わずおらふくんの項に甘噛みした。