
第3章 アイドルじゃない
「お嬢様企画とか、未だに人気だしな」
と俺が言うと、そうやね〜と言いながらおらふくんはコメント欄を開いた。
そこには沢山の好感触なコメントが並んでいた。変なコメントはスタッフさんが削除したかもしれないが、最近また見に来た、などのコメントもチラチラとあって俺も少し驚いた。
「ハハハ、僕たち、アイドルみたいやなぁ」とおらふくんは隣で笑った。「僕らアイドルじゃないのにな。皆からしたらそう思うんやろか」
「そうなんだろな」
と俺は答えながら、その言葉はドズルさんも言ってたなぁとぼんやり思い出していた。そう、俺たちはアイドルじゃない。ただのゲーム実況者グループ……にしてはかなりのチャンネル登録者数になった。もう有名ゲーム実況者グループか? いや、ドズさんはまだまだって言うだろうなぁ。
「MEN?」
「あ、ああ、なんだ?」
考え事をしていると、おらふくんに呼ばれていたことに今気づいた。そんなにボーッとしていたつもりはなかったのに、ついおらふくんの顔を見つめてしまう。
「僕の顔見過ぎやろ、MEN」
「ハッハッハッハッハッ、恋人はアイドルってことだな」
「なんやそれ」
俺は適当なことを言って話を流す。おらふくんはそうツッコミながらも笑っていた。よく笑う男だ。
それから俺は動画へと視線を戻した。動画はいよいよ大詰め段階。ファンに愛を届けるために、スポットの下でポーズを決めろとみんながわちゃわちゃしているところだった。
「本当のアイドルは大変よなぁ。愛か〜、すごいな〜」
「だな」
とおらふくんの呟きに俺は相槌を打ちながら、確かに愛の力はすごいな、と改めて感じていた。愛があったからこそ俺たちはこうして一緒にいるし、毎日がいつも以上に充実しているし幸せだ。おらふくんには絶対言わないけど。
「……おらふくん?」
隣にいるおらふくんが静かになった。動画がもう終わったのにおらふくんが何かしら操作する様子がない。顔を覗き込むと、おらふくんはいつの間にか熟睡していたのだ。……そうか、最近長時間配信もあったし、疲れていたんだな。
と無防備なおらふくんの顔を眺めていると、俺の中の何かが騒ぐ。
「すぅ〜……Zzz」
挙句の果てにはおらふくんは頭を俺の体に預けてきた。温かい。ていうか俺も眠くなってきたな。
「おやすみ」
俺はそっとおらふくんに口付けをして、そのまま眠りについていった。
