第1章 サインの秘密
「うわ、MEN?」
「ん」
「ちょ、くすぐったいよ?」
そんな無防備な項を見せるからでしょ、と言いたくなるのを抑えてMENはなんとかおらふくんから離れる。どうしよう。ずっと離れたくないんだが。
「ねぇ、MENのペン僕のと違うん?」
気持ちの切り替えが早いおらふくんが、MENのサインを指さしながらこちらを振り向く。あまり動揺していないって訳ではなさそうなのだが。それより早くサインを完成させたいみたいだ。
「ペンは同じはずだよな?」
MENはパット端末に備え付きペンを手に取りながらおらふくんの質問に答える。
「え〜、じゃあなんでMENのサインこうなってるん?」
「もしかして、こっちのペンの方か?」
「え」
「俺はこのペンを使ってる」
「恋ペン?」
「そーそー」
するとおらふくんがははっと笑った。MENもつられて笑いながら、なんで笑うんだと返すと、おらふくんがこう言う。
「恋ペンなんて、MENに似合わなっ」
「はぁ、酷くね?」
「はははっ」
それでも楽しそうに笑うおらふくんを見ていると、怒る気力も失せて。まぁ最初から怒る気もなかったんだが。
おらふくんは自分のパット端末へと視線を戻した。真剣な眼差しを横で見るだけの至福の時間。おらふくんはこういうものに関してはMENにアドバイスを求めなかった。聞かれてもMENは答えなかったのだが。何よりMENは、おらふくんを縛り付けるようなことは言いたくなかったからだ。
元よりMENは、誰かや何かに縛り付けられることが嫌いだ。だからこの想いは隠し通すつもりだった。こうして一緒にいることだって、おらふくんを縛り付けている気がしていたから。
それでもこうして関わっている内にぐっと近づいてくるおらふくんが夢からも離れなくなって。半分冗談で「付き合うか」なんて言ったのが始まりなんて、ちょっとダサいかもな。
「よし、出来たよ、MEN!」
そんなMENの思考なんてつゆ知らず。おらふくんはぱっと開いた明るい顔でMENを見上げた。正直上目遣いはズルいと思う。
「あ〜、いいんじゃね?」
「それテキトーやろ」
MENの受け答えにおらふくんは笑いながらそう言って、出来上がったサインを見せてくれた。
それがいずれシークレットグッズに書かれるサインとなるのだが、初めてそれを見たのはMENだけだというのは、他のメンバーにはまだ、内緒の話である。