第5章 あの人と出会ってしまった
思えば、五条くんのことを考えていたから、兄のことを必要以上に考えなくなっていた。
五条くんで頭の容量が埋まっていたのかも、なんてね。
忘れられるわけのない思い出は2つ。
1つは五条くんと水族館に行ったこと。
もう1つはやっぱり兄のこと。
繋いだ手が私に冷静さを分け与えてくれていた。
高専の門が見えてきて、五条くんはぴたっと立ち止まった。
「ここまでだな」
「ここまで…ね」
いつまでも温もりを共有している訳にもいかない。
繋ぎ合った手はどちらからともなく離れた。
「寮の入り口までは一緒に居るからな」
「…ありがとう」
きっと五条くんと離れてしまえば、頭を埋め尽くすのは兄だけになる。
「もう少し…一緒に居たいのだけれど」
「なに?急に素直じゃん」
「そんな時があったっていいでしょう」
練習をするまでもなく、素直になれるなんて出来たものでしょ?
「わ、私のことが心配なら「寧々のことが心配なのは当たり前だろ。前回は帰らされたけど」
皆まで言わずとも分かってるのね。
「なぁ、寧々のことが心配だから、部屋まで着いてっていい?」