第5章 あの人と出会ってしまった
「あ?ダメに決まってんだろ、離さねーよ。俺の幸せを奪うな」
「手を繋ぐことが幸せなの?」
「今の俺には1番の幸せなんだよ。キスとかその先とか付き合ってると色々したいことはあるけど、今はこれで十分」
そう言って繋いだ手にぎゅっと力を込めるから。
その力が心臓まで達してドクンと跳ねた。
五条くんの言葉が嬉しかったんじゃなくて、力のせいだからね。
そこは勘違いしないでよね。
「キスの前にもう一個あったわ」
「なに?変態さん」
「恋人繋ぎ、指と指を絡めるやつ。それもしたい」
変態の自覚はあるらしく、否定はしなかった。
「私は…別に…」
「ったく、寧々は素直になる練習が必要だな。変態さんが教えてやろうか?」
「本当に気持ち悪い」
変態さん…五条くんは繋いだ手をゆっくりと引っ張った。
「高専に着くまでは繋いでようぜ」
「そう」
繋いだ手は温かかったから。
涼しくなってきた山道には必要な温度だったから。
この温もりを手放したくないから。
様々な理由を並べ立てて、隣を歩く。