第5章 あの人と出会ってしまった
不思議ね、兄に呼ばれる名前には負の感情しか湧かないのに。
五条くんに名前を呼ばれると、こんなにも嬉しいなんて。
今だけじゃない、五条くんは今までも、沢山、沢山呼んでくれた。
その全部に私を想う気持ちが、温かくて優しい気持ちが込められていた。
今更気づくなんて、私はとんだ馬鹿ね。
「雰囲気もあったもんじゃないし、カッコついてもいないのだけれど」
そんな憎まれ口を叩きながらも、差し出された手を握り返して立ち上がる私でごめんなさいね。
でも、ありがとう。
「言っておくけど、手を繋ぐことに次はないわ。これが最後よ」
本音じゃないの、伝わってる?
「素直になれよ?俺のこと大好きなくせに」
……伝わり過ぎてるじゃない。
まだ、大好きではないのだけれど。
「前よりは好きよ。恋愛としてではないけどね」
「人間としてってことかよ。異性として俺の魅力に気付くにはもう少しってとこだな」
「……立ち上がったのだから、もう離してくれない?」
差し伸べられた手は、立ち上がる為のもの。
今はもう、繋いでいる必要はないんじゃないかしら。