第5章 あの人と出会ってしまった
「ただ…いきなり触れるのもな?優しくはしたいんだよ」
五条くんがへたり込んだ私に視線を合わせる。
もう何度もこうして、視線を同じにしてくれた。
「まずは鼻かめよ。雰囲気って大事じゃん?」
五条くんは流れるような動作でティッシュを1枚抜き取ると、かち合った視線をそのままに
「!?」
「ほら、絞り出せ」
鼻先にふわっとティッシュをあてがった。
「子供じゃないのだけれどっ」
手を繋ぐより先に、こんなことをしてるのが
それが…なんだか可笑しくて
「ん、少し笑ったな」
赤子のようにわんわんと泣いていた私を、本当に赤子のように扱うから。
「フフッ、まるで赤ちゃんね」
ティッシュを隔てていても、五条くんの温もりはちゃんと伝わってきた。
「随分とでっけえ赤ん坊だな。つか、ニコニコ笑ってると幼く見えるのな」
「ニコニコなんてしてないわ」
少し、口元がニヤけて目を細めてるだけよ。
そしてそれを隠さず見せてるだけ。
「手繋ぐ前にキスしていい?」
「気持ち悪い」
段階をすっ飛ばすほどの余裕はないわ。
それでも、初めてよ。