第5章 あの人と出会ってしまった
「じ、地面に置いて…っ。それか投げて…っ」
手が近付くのを今頃「拒絶」した。
「離れて…っ」
水族館のお土産コーナーで買ったボールペンとシャーペンの入った紙袋は何の躊躇もなく受け取れた。
物を介してであれば、手が触れなければ近づけるはずなのに。
今は…五条くんの手に触れることが怖い。
兄以外の手の温もりを「拒絶」している。
どうしようもなく兄に教え込まれた。
私は「兄のお人形」だって。
ねぇ、お願い、こんな私に近づかないで。
とても、汚いのだから。
忌々しい兄の温もりを上書きするのは、五条くんなのかもしれない。
そうであって欲しいと願うのに、私に「触らないで」
私が「汚い」から「触らないで」
私なんかには「触らないで」
「寧々、俺は今日手を繋ぐ気でいるって言ったよな」
確かに五条くんはそう言っていたけれど、こんな状態の私を見てその気が失せたのね……。
「ずっとタイミング見計らって逃し続けてたけど、今なんじゃねぇかって思う」