第5章 あの人と出会ってしまった
体に染み付いた恐怖は、奥底まで根を張ってがんじ搦めのように私を縛った。
強張った体は逃げ出したいと願うのに、頭では逃げなくてはと思うのに、
逃げることしかできないのに、それすらもできない。
ただ、隣にいる五条くんだけが細い線で私を絡め取っている。
「寧々、大丈夫。俺は寧々の味方だよ。…つーわけで、あんたはさっさと帰ってくれる?」
「元々帰るとこだったんだけどね。あと五条家だからといって先輩をあんた呼びはどうかと思うよ。僕、卒業生だし。それと僕の名前は水無月弥彦。キミの隣にいる寧々の兄だよ」
「長々しい自己紹介どうも。覚える気ないんで」
「やだなぁ、御三家だからって偉そうに。そのうち没落しても知らないよ?」
「偉そうなのはどっちだよ?寧々、行こう。こんな奴相手にしてらんねぇわ」
五条くんが私に目線を合わせて屈む。
地べたを見るしかなかった私には、薄闇の中でも明るく光って見えた。
優しい光に導かれて、自分の足ですっくと立ち上がる。