第5章 あの人と出会ってしまった
「だろうね。何回五条家に挨拶に行っても追い返されるんだもん。水無月家のこと嫌いなんだと思ってたよぉ」
「あんたのことは嫌いだけど?」
「へぇ?会ったこともないのに嫌われちゃったんだぁ。悲しいなぁ…」
怖い、お兄様が。
最後に会ったのは…お兄様が高専を卒業した時。
寮から家に戻ってきたお兄様は私にいつものように…いつもよりも凄惨で惨たらしい行為をした。
入れ物となった体にお兄様は憎悪の限りを注ぎ込んで、何事も無かったように実家を出た。
拒絶なんてしようものなら命はないと思った。
お兄様に虐げられている時は死んでしまいたいと思うのに、姿が見えなくなると今度は生きていたいと願った。
この汚い世界を、お兄様に染められた醜い過去を、この手で、自分の手で変えたいと渇望した。
《復讐》に駆られて生き続けた。
お兄様も見て見ぬフリをし続けた両親も、この手で討ち取ると。
私だけが幸せな未来を築き上げると。
誓った…はず…なのに…。
いざお兄様を目の前にすると、地面にひれ伏して這いつくばるしかなかった。
視線を合わせることすらも出来なかった。