第5章 あの人と出会ってしまった
「えっ…」
私の名前を呼んだのは、隣にいる五条くんじゃない。
「久しぶりだな。元気にしてたか?」
出会って…しまった……。
「お兄…様…」
薄暗い空と仄暗い笑顔。
父によく似た顔立ちで、ニコリと笑みを浮かべているけれど、その目の奥はちっとも笑ってなんかいない。
嘘っぱちの作り笑顔が張り付いたお兄様…私の…復讐したい相手…。
「卒業してからはフリーだからさ、久々に高専に顔出してみたの。そしたら帰り道に妹と会えるんだもん。僕って運が良いね」
スラスラと出まかせの嘘を捲し立てて、お兄様は更にニコニコと微笑んだ。
さも私に会えたことが嬉しい…なんて言い方をされて、体が心が震えた。
「や…めて、こないで…っ」
「どうしたの?何かあった?…あー、隣の男と何かあった?」
「……っ、!!」
足がすくんで力が入らなくなった私は、その場に膝から崩れ落ちることしかできなかった。
「僕の妹が世話になったようだね。ところでさっきから黙ってるけど、キミって五条悟だよね?ずっと会いたかったんだぁ」
「どーもー。俺は会いたくなかったッスけどね」