第5章 あの人と出会ってしまった
「寧々とのこれからの思い出を全部記憶しておくには、足りないかもな。忘れないようにしねぇと」
「次」も「これから」も、五条くんの思い描く未来には、私が隣にいる想定なんだ。
楽しい思い出を共有してくれるんだ。
……嬉しいじゃない。
「私も楽しかった。今日のことは忘れたくない…とても素敵な1日だった」
「ーーっ、素直かよ…っ」
ただ楽しかったと言っただけなのに、五条くんの顔はみるみるうちに赤くなっていく。
「あー…、幸せ過ぎて辛い…」
茹で上がった顔面を両手で隠しながら呟いた。
「ついでに手も繋げてたらな…」
「それは嫌」
「そうかよ…可愛いな…」
肩を落としながらも、しっかりとした足取りでバス停まで歩いてくれる五条くん。
夕焼けに染まった空はとても綺麗で、風が心地よい。
「硝子達はまだ館内にいるのかしら」
「傑から最終のイルカショー観て帰るって連絡きてたわ」
「向こうも楽しんでるのね」
まだ帰りたくない、名残惜しいのは、きっと水族館…だから…で誤魔化しているのは。
薄々気づいている、五条くんが隣にいると楽しいって。
でもまだもう少し、この気持ちは隠しておきたい。