第5章 あの人と出会ってしまった
「やめ…って!約束!約束するから…っ」
「ん、お利口さん。強引な手段で悪ぃな。こうでもしないと毎回気を遣わせそうでさ」
五条くんは伸ばした手をスッと引っ込めて、スタスタと歩き出す。
「行こうぜ。2回目のデート、全力で楽しもうな」
休日だからか1回目の時よりもお客さんが多くて、入場口は人でごった返していた。
「ちなみに俺の計画では、帰りには手を繋いでることになってる」
「不可能ね」
周りのカップルには手を繋いでいる人達も沢山いる。
私にはとても…そんなことは出来ない。
「寧々、人じゃなくて魚見に来たんだろ?順路通り回ろうぜ」
「そ、そうね」
そうだった、今回の目的は海の生き物を観ること。
周りの人間ばかり気にしていては、楽しむものも楽しめないわね。
「寧々!この魚の名前、オジサンだって!前来た時はいなかったよな!?」
「そうだと思う、サンゴ礁は綺麗だけどこの魚は…少し不気味ね」
カラフルで煌びやかなサンゴ礁を背景に泳ぐ不恰好な魚。
南国を思わせる赤茶っぽい体色と、顔に不自然に垂れ下がる長いヒゲ。