第10章 知らない女の子と五条くん
「せっかく話しかけてくれたのにごめん。見ての通り彼女が不安がってるから、ここまでにしてくれる?」
同じ笑顔という形容でも、私にだけ向けた表情とは違う。
苦い顔を押し潰すような、明らかに何かを上塗りしようと作り上げた嘘っぱちの笑顔。
「ご、ごめんね…っ、私、空気読めなくて…っ」
あ、泣きそう…そう思った時には既に体の向きを変えて、顔に手を当て立ち去っていく。
これで良かった……とは思わない。
五条くんが宣言してくれたら…それは近い形で叶いはしたけれど
今、私が安堵してしまったら、私は悪い人になる。
いっそのこと優越感に浸りでも出来たら、その方がことのほか楽だったでしょうね。
チラリと、ほんの少し視線を配れば、両手で顔を覆って肩を大きく振るわせる女の子と
それを必死に宥める友人の姿が視界に入る。
「寧々、俺は「寧々は悪くないよ。悪くない、大丈夫だよ」
「硝子…」
悪友…解を紐解き過ぎて、理解をし過ぎた…私の親友。
大きく肩を揺らす女の子と未だ足が小刻みに震える私。
「悪いのはさ…」