第10章 知らない女の子と五条くん
「覚えてはいる…」
「そっかぁ!あ、あの、突然話しかけてごめんねっ、卒業してから会えてなかったから、見かけて嬉しくなっちゃって…!」
「別にいいよ」
恥じらう女の子の後ろの席で、こちらの様子をまじまじと伺っているのはおそらく彼女の友人達ね。
「頑張れ」「ファイト」そんな表情が分かりやすく見て取れる。
友達にも愛される素敵な人なのね。
「一緒にいるのって、高校が同じ子達?」
「そうだけど」
五条くんは素っ気なく、愛想なく答える。
ご自慢の容姿が手伝って、クールとも言えなくはないけれど。
それにしたって、私の知っている五条くんではない。
なんだか、とても冷たい人みたいに感じる。
そんなことはないのに…、本当の五条くんは優しくて温かい人なのに。
とても、とてもね。
「どっちかの子と付き合ってるとか…えと、そのっ」
なるほど?話しかけてきた真意はそこなのね。
…なーんて、心の中で余裕ぶっていられるほど、私は冷静ではなかった。
不自然に鼓動が早まって、気持ちが落ち着かなくてソワソワする。
足元が微かに震えて、それを隠そうと視線がドギマギしてしまう。
硝子には見抜かれているとはいえ、「私と付き合ってます」なんて誇示するように名乗り出るようなタイプじゃない。
でも、この状況を一番面白くないと思ってるのは明らかに私だ。
あぁ、いっそのこと……